天満HOPE修景整…
昔ながらのまちなみが残る大阪天満宮、菅原町周辺では、2008年6月に天満地区HOPEゾーン協議会が設立され、大阪市と地域住民が協力して「まちなみガイドライン」に沿った修景整備が進められている。池田ビルは大阪天満宮の表参道に面した小さな5階建てのテナントビルで、1階には当NPOメンバーでもある井上彰氏が経営する「祭屋・梅の助」が入居している。
建物の間口は2間(約3.6m)、柱型を除いた店舗の有効間口はまさに1間(約1.8m)しかない極小の空間であり、道路境界はかろうじて10cmの余裕があるだけで、ほぼいっぱいに建物が建っているという条件の下、天満HOPE計画でのまちなみ修景設計第一弾となる修景設計を実施した。
- 委託者:池田和夫氏
- 設計期間:2009年9月〜12月
- 施工期間:2010年1月〜3月
建物全体の間口を使い、町家の軒庇を意識した木製格子を10㎝の空間を利用して取り付ける。2種類の部材を交互に張ってリズムを持たせながらできるだけ彫りを深くしつつ、全体は水平ラインを意識させる横長のプロポーションとして、将来的にまち並みが連続していくための要素とした。
次に天満HOPEのテーマ「しつらい空間」を柱間のスペースに挟み込む。上部は間口いっぱいを意識した光格子、右の5コマは店の屋号が格子に浮かび上がる内照式のサインである。右下には大きなしつらい空間を同素材のショーケースとして要素の連携を図った。建具は上部木製格子と同素材・同意匠で統一感を持つ様に配慮した。上部のエアコン室外機にも木製格子を取り巻き、景観阻害要素を目立たないようにしている。
それぞれの素材は、適材適所と年を経てなお素材感を増すよう吟味したもので構成されている。外部格子や建具などに用いたのは、きめが細かく耐久性のある国内産の松材を神戸の名工による見立てで加工組立してもらっている。また風雤にさらされる部分に使用する鉄材は亜鉛メッキの上に過酸化マンガン処理を加えることによりトーンを落としてなじませている。
今回は「大阪まち遊学」のネットワークを存分に活かすこととなった。しつらい空間の精巧な鉄のショーケースは2009年の「西六エリア(西区)」で出会った鉄の工房「LOOP(ループ)」の作品であり、ファサードの両袖を飾る重厚な梅鉢のレリーフは同じく「玉造エリア(東成区)」でいまも砂型鋳物の手法を守り続ける「井濱鋳造所」に依頼した。
そして地元で伝統を受け継ぐ「河井提灯」からぼてふり提灯を寄贈いただいた。河井提灯は2008年「天満天神エリア(北区)」のまち歩きで作業場を訪問している。
このような人や素材、手業の総和として今回の天満HOPE池田ビル修景プロジェクトは成り立っている。
しつらい空間にはさっそく地元発祥の伝統工芸品である天満切子が飾られていて、通りがかりの人もふと足を止めて店主としばしの会話を楽しむ様子が見受けられる。店舗も多くの人でにぎわい、時を忘れてくつろぐお客さんがひきも切らない様子である。このように新たに出会う人の輪や魅力ある建築の輪が広がりつつある。
- 大阪市HOPE(ホープ)ゾーン事業:歴史的・文化的な雰囲気等に恵まれた地域を、大阪の居住地イメージを高めるゾーンとして位置づけ、地域住民等と協力しながら建物の修景等によるまちなみ整備の誘導や地域魅力の情報発信などを行い、特色ある居住地の形成を図る事業。